高齢者診療の難しさ
高齢者の診療が難しいことについて前回触れたが、ここについてもう少し書いてみたい。
高齢者は複数の病気が同時発生することが多いという話をしたが、これだとどう難しいのか。
お医者さんは診療するとき、できるだけ病気の原因をピンポイントに絞り込もうとする。
しかしながら、高齢者が複数の病気を同時発生していると、この絞り込まれた原因以外にも原因がありそうだ、という話になる。
この場合、お医者さんとしては様々な原因に対処するような薬を使うのがベターと考えてしまうのだ。
広く効く薬というのは、様々な原因に効果がある反面、広く薬に抵抗する力を身体につけてしまう薬剤耐性を強くしてしまう課題がある。
すると、今後の病気に影響を与えてしまうかもしれないのだ。
実際、高齢者は既にさまざまな薬剤耐性を持っているケースが多い。
すると薬を処方しても効果が見られないということもありうるのだ。
このように、複数の病気が同時多発すると、たとえメインで出ている症状がわかっても、それに対する標準治療が弊害となってしまうこともある。
例えば、菌血症という病気になった場合、10~14日程度の点滴入院治療が標準となっているが、高齢者がこの治療をしてしまうと、認知症の進行などを引き起こしてしまう可能性がある。
そのため、薬での治療も視野に入れて検討する必要があるのだ。
とにかく高齢者の診療は難しいと思っておこう。
・判断に迷う場合は病院へ行く
・病院へ行っても1回で原因がわからない可能性がある
ことを意識しておくのが大事になる。
高齢者が発熱した場合に意識しておくこと
高齢者が発熱した場合について考えてみる。
というのも、高齢者は一般成人における診断の考え方がはまらない場合が多い。
これを意識しておくことがまずは重要になる。
では、まず高齢者とは誰なのか。
定義はなかなか難しいのだが、日本では栄養状態の改善などにより、年をとっても元気な方が増えてきている。
昔は65歳以上を高齢者としていたが、これが妥当ではない状況になってきており、現在では75歳以上を高齢者の目安とするのが妥当だ。
そして、次に発熱の定義だが、これは平熱+1℃と考えよう。
平熱にばらつきがあるので、絶対的な対応でなく平熱と比較した相対的な対応で判断するのがいい。
高齢者の発熱の定義ができたところで、具体的にどう症状を判断するかだが、実は高齢者の診断は病院でも難しい。
その理由は、複数の病気の同時発生の可能性が高いことだ。
一般成人の場合、医師は極力1つで説明できる病気を探す。
しかしながら高齢者は複数の病気が同時発生することが高いのだ。
これが問題をより複雑にしてしまうので、医師であっても正確な診断が難しいのだ。
高齢者が病院にくるときの多くは、「ある症状が出た」という急性疾患がきっかけになっている場合が多い。
しかしよくよく話を聞いてみると、実は他の慢性疾患を持っている場合がある。
医師でも、急性疾患に目を奪われて、慢性疾患を見落としてしまうことは多いのだ。
これらのような状況なので、75歳以上の高齢者で平熱+1℃以上の発熱があれば、病院を受診した方がいいだろう。
そして受診後も様子を見ながら、違和感があれば病院を再受診することを考えておくべきだ。
何度か受診して、病気が特定されることは珍しくなく、それは医師の腕が低いからではなく、高齢者によくある事態なのだと理解しておくことが大事だ。
高齢者で咳が主な症状だったら
高齢者で咳が主な症状だった場合について見ていこう。
成人の症状として
・寒気を感じでガタガタと震えが止まらず、38℃以上の発熱、咳がある
・一度治ったと思ったら、ぶり返したように咳が出た
・喉の痛みや鼻水などの他の症状がない。
にあてはまると、肺炎の可能性があることは以前に述べたとおりだ。
他にも、いつもより脈拍が多い(100回/分以上)、呼吸数が多い(24回/分以上)、呼吸時に異常な音がする、といった症状がなければまず間違いなく肺炎ではない。
では、高齢者ではどうかというと、先のブログでも出てきた年齢とともに免疫機能が低下する免疫老化という現象でこれがあてはまらないケースがあるのだ。
なので、高齢者の場合はいつもの体温から1.3℃以上の熱があれば、病院に行くようにしてほしい。
高齢者は非高齢者に比べて、薬によって肺炎の予防効果が高いといわれているため、疑わしい状態になったら病院に行くように心がけた方がいいだろう。
また、高齢者に多い病気として「誤嚥性肺炎」というものがある。
誤嚥とは食べ物や唾液が気道に入ってしまうことをいう。
食事中や睡眠中にこの誤嚥が起きると、口の中の細菌が気道に入ってしまい、肺炎が起きてしまうのだ。
食事中は誤嚥したことに気付きやすいが、睡眠中だと本人が無自覚の場合もあるのでやっかいだ。
食事中、睡眠中の誤嚥が疑わしい状態で、重い症状が出ている時や2日以上経過しても症状の改善が見られない時は、薬の服用が必要な場合が多いので病院へ行こう。
高齢者で鼻水が主な症状だったら
今回からは高齢者を前提に、鼻水が主な症状だった場合について考える。
そもそもだが、人は年齢が上がるにつれて、免疫機能は低下していくようにできている。(専門用語で免疫老化という)
よく「高齢者はワクチンが効きにくい」という話を聞くが、これは本当のことで、ワクチンは特定の症状に効く免疫の機能を向上させるのだが、そもそもの免疫の機能が低いい高齢者はワクチンが効きにくくなってしまうというわけだ。
また、免疫老化があるから、免疫が過剰に反応して起こるアレルギー性鼻炎は、高齢者ではほとんどない。
高齢者が鼻水が主症状だった場合は、まず喘息持ちかどうか確認しよう。
喘息持ちなら喘息に伴っての症状の可能性が高い。
ちなみに高齢者になってから、喘息が出始めて鼻水が出るということは基本ない。
これ以外の鼻水の原因として、薬剤が引き起こすというものがある。
直近飲み始めた薬があれば、それの副作用として鼻水がないか確認しよう。
これ以外のパターンであれば、病院に行った方が良いだろう。
高齢者の「風邪かな?」の難しさ
高齢者は風邪をひきにくい、という話を聞いたことがある人は少なくないはずだ。
実はこれは根拠がある。
高齢者は長い人生において、様々なウイルスにさらされ感染してきている。
感染は症状が出ないものも含めるから、自分が認識しているよりも、人は多くのウイルス感染を経験しているのだ。
そして、人間は同じウイルスにさらされて感染しても、症状が軽くなるという力を持っている。
だから、たくさんのウイルスに感染した高齢者は風邪をひきにくいのだ。
高齢者が乳幼児に比べて風邪をひく確率は1/4になるとも言われている。
これは何を意味するのか、というと、高齢者が体調が悪いなと思った場合は、単純な風邪ではない可能性が高いということだ。
だから高齢者の診療は、お医者さんでも難しい。
ということで、今後は高齢者が風邪っぽいなというときにどう考えるべきなのかを、今後のブログで考えていきたいと思う。
自宅診療が大事だと思った理由②
風邪について、調べ始めてから、悪い意味で知って驚きのことがあった。
それが「薬剤耐性」の問題だ。
薬剤耐性とは、私たちが自分に対して何らかの作用を持った薬を飲んだ時に、この薬に抵抗する状態になってしまうことだ。
薬に抵抗してしまうから、薬が効かない、あるいは効きにくくなるといったことが起きてしまう。
この状態がひどくなると、普通なら薬で治る病気なのに、薬を飲んでも治らずに重症化してしまうということになってしまうのだ。
この薬剤耐性の問題を引き起こしているのは、なんとお医者さんである。
お医者さんは、病院にやってくる患者さんに対して風邪症状にも丁寧に対応したいという気持ちがある。
一方で、風邪かどうかが判断がつきにくい曖昧な症状の時も多い。
また、高齢者になると、なかなか若者の診療手法が当てはまらないこともある。
このようなもやもやした状態で、お医者さんも悩みまくっているのだ。
そして目の前の患者さんが苦しそうにしていると、症状をおさえるためにも薬を処方したい気持ちになる。
患者さんの方から、薬の処方をお願いすることもよくある話だ。
こういう背景があって、お医者さんとしても良かれと思って薬を処方してしまう。
すると、患者さんには薬剤耐性がついてしまう。
結果、将来的に患者さんが、普通なら治る感染症で重症化し苦しむということがあるのだ。
この薬剤耐性の問題は、実はすごく拡大してしまっていて、近い将来、よくある感染症で多くの人が死んでしまうという可能性も指摘されている。
だからこそ、この問題に向き合わなくてはいけない。
これを解決する手段は、一般的な風邪症状なら病院に行かずに自然治癒すべきだということだ。
だからこそ、この自宅診療ということが大事ということなのだ。
将来、自分や周りの人々が、普通なら治る感染症で苦しまないためには、この自宅診療がその一助になるにちがいない。